1.法人を契約者とする終身保険契約と支払保険料の経理処理のまとめ
契約者=法人,被保険者=役員または使用人(その親族を含む。)という契約形態による普通終身保険と定期保険特約付終身保険の払込保険料の経理処理を,法基通9−3−4,9−3−5,9−3−6,9−3−6の2から類推しまとめると次のようになる。
(注1) 一定の条件に該当する長期平準定期保険特約等の保険料については,損金算入割合が制約される。 (注2) 上表の中に「役員等のみ」とあるのは,「役員又は部課長その他特定の使用人」のことをいう。
(注3) 傷害・疾病関係特約保険料の損金算入処理については,昭和59年12月17日付直法2−3「法人税基本通達等の一部改正について」通達の発遣により養老保険や定期保険特約付養老保険等に付加された傷害特約等の保険料の取り扱いが改正されたので,普通終身保険や定期保険特約付終身保険に付加された傷害特約等(傷害・疾病関係特約)の保険料の取り扱いもこれに準じて行う。上表はこの考え方をベースにまとめている。
2.支払保険料の取り扱い
(1) 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
? 法人の経理と税務(普通終身保険・定期保険特約付終身保険とも共通)
保険料内訳明細書等により,支払保険料が終身保険部分と定期保険特約部分,傷害・疾病関係特約部分とに区分し表示されているときは,終身保険部分の保険料は資産に計上する。定期保険特約部分,傷害・疾病関係特約部分の保険料は期間の経過に応じて損金に算入する(注参照)。ただし,支払保険料が1年以内の場合(短期の前払費用)については,その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときはこれが認められる(法基通2−2−14)ことになっているので,年払保険料等(半年払い,月払い含む。)として支払われる定期保険特約(長期平準定期保険特約等を除く。),傷害・疾病関係特約の保険料は全額損金に算入できる。
ただし,生存給付金付定期保険特約の保険料は,資産に計上する。
(注) 法人が,自己を契約者とし,その従業員(親族を含む。)を被保険者とする傷害特約等(傷害・疾病関係特約等)の特約付きの養老保険や定期保険,定期保険付養老保険に加入し,その保険料を支払った場合において,それが役員等特定の従業員(親族を含む。)を対象として加入したものであり,あるいは全従業員を対象として加入したが役員等特定の従業員(親族を含む。)分についてだけ,その特約に係る給付金の受取人を当該特定の従業員とするものであるときは,その特約に係る保険料は,当該特定の従業員に対する給与とする(法基通9−3−6の2)となっているので,終身保険や定期保険特約付終身保険に付加された傷害特約等の保険料の取り扱いについても特別に定められた規定はないが,上述の養老保険等に付加された特約保険料の取り扱いに準じて,給与として経理されることになろう。
このコーナーではこの考え方で解説をすすめている。
借 方 |
貸 方 |
保険料積立金
(資産の増加) |
100,000円 |
定期保険特約保険料
(費用の発生) |
180,000円 |
傷害等特約保険料
(費用の発生) |
50,000円 |
|
|
|
|
(注) 上記の仕訳において,役員等特定の従業員のみを対象に加入したものであり,あるいは全従業員を対象として加入したが役員等特定の従業員分についてだけ,その特約に係る給付金の受取人を当該特定の従業員とするものであるときは,仕訳中の「傷害等特約保険料」のうち当該特定の従業員に係る保険料部分は,下の仕訳のように当該特定の従業員に対する給与となる。
|
借 方 |
貸 方 |
保険料積立金
(資産の増加) |
100,000円 |
定期保険特約保険料
(費用の発生) |
180,000円 |
傷害等特約保険料
(費用の発生) |
30,000円 |
給 与※
(費用の発生) |
20,000円 |
|
|
|
|
※役員等特定の従業員に係る傷害等特約保険料部分が20,000円であったと仮定。 |
? 被保険者の税務
被保険者である役員又は部課長その他特定の使用人のみを傷害特約等の給付金の受取人としている場合,傷害等特約保険料部分が当該役員等の給与となる以外,課税関係は発生しない。
(2) 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
? 法人の経理と税務
イ)普通終身保険の場合(定期保険特約のないもの)
一般に保険料内訳明細書等により終身保険部分の保険料と傷害・疾病関係特約部分の保険料とに区分表示されている。そこで,終身保険部分は給与に(一時払の場合はその全額が賞与となる。),傷害等特約保険料部分は損金として処理される。
|
借 方 |
貸 方 |
給与(終身保険部分)
(費用の発生) |
×××× |
傷害・疾病特約保険料
(費用の発生) |
×××× |
|
|
|
|
(注) 傷害等特約保険料の経理については,被保険者である役員又は部課長その他特定の使用人のみを傷害特約等に係る給付金の受取人としている場合には,その特約保険料は当該役員等の給与として経理されることになる。
|
ロ)定期保険特約付終身保険の場合
保険料内訳明細書等により終身保険部分と定期保険特約部分,傷害・疾病関係特約部分とが区分されているので,終身保険部分は給与として処理(一時払の場合はその全額が賞与となる。),定期保険特約部分および傷害・疾病関係特約部分は全員加入であれば損金(福利厚生費)として処理される。
ただし,定期保険特約部分については,役員又は部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む。)のみを被保険者としている場合には,当該保険料の額は,その役員又は使用人に対する給与となるので注意が必要である(注1)。
また,傷害・疾病関係特約部分については,役員又は部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む。)のみを傷害特約等に係る給付金の受取人としている場合には,当該保険料は,その役員又は使用人に対する給与となる。
定期保険特約付終身保険契約の通常の契約の場合における仕訳を示すと次のようになる。
借 方 |
貸 方 |
給与(終身保険部分)
(費用の発生) |
×××× |
定期保険特約保険料
(費用の発生) |
×××× |
災害・疾病特約保険料
(費用の発生) |
×××× |
|
|
|
なお,イ)ならびにロ)のいずれの場合においても,被保険者が役員あるいは役員の親族などの特殊関係使用人であるときは,他に支給される役員報酬・給与と合算されて,これが適正額を超える場合,その超える部分は損金算入を否認されるので注意が必要(法法34,法令69,法法36の2,法令72の2〜3,法基通9−2−10(12),同9−2−16(5))。
(注1) 定期保険特約部分の保険料が損金算入されるためには,次のような条件に抵触していないことが必要である。すなわち,条件さえ整っておれば記述のとおり損金として処理されるが,被保険者が役員又は部課長その他特定の使用人のみの場合は企業内の特定の人たちに特別の利益を与えることになるからという理由で給与として取り扱われることとなる。極端な例をあげると,同族会社で使用人のほとんどが同族関係者である法人については,全員加入であっても,その同族関係者については給与となるので注意が必要。
上記の「役員又は部課長その他特定の使用人のみ」の解釈につきいま少し付言すると,いわゆる役付者だけとか役員だけというような場合のことをいい,例えば「年齢××以上の者」とか「特定の部署の者」とか「勤続何年以上の者」とかの場合は普遍的(特定の反対)に属し,従って,年齢の高低により多少の格差を設ける,ホワイトカラー組とブルーカラー組がある場合に危険度の高い後者のみ多少保障を厚くしておく,本社と工場がある場合に工場のみ契約しておくといったケースは特定の範ちゅうに入らない。つまり,こうした心くばりを行っている契約では保険料の損金算入が認められるわけである。
(注2) 役員報酬と役員賞与の区分
|
? 役員報酬(=定期の給与)とは,あらかじめ定められた支給基準(慣習によるものを含む。)に基づいて,毎日,毎週,毎月のように月単位以下の期間を単位として規則的に反復又は継続して支給される給与をいう。
これらの給与であっても,通常行われる給与の増額以外に,ある特定の月だけ増額支給された場合のその給与については,その特定の月において支給された額のうち各月において支給される額を超える部分の金額は臨時的な給与(=賞与)となる。例えば,毎月支給される役員報酬の額が前月の売上高に応じて増減するように定められているような場合には,その役員報酬として支給する給与の額のうち売上高のいかんにかかわりなく支給されることとされている金額を超える部分の金額は,定期の給与(=報酬)に該当しない。つまり,賞与として取り扱われることになる(法基通9−2−13)。
〈解説〉 上記の法基通9−2−13をベースに考えると,保険金受取人を被保険者である役員およびその遺族とし,その保険料を年払いで払い込んだ役員保険(経営者保険)では,当該役員の報酬の上積み給与として支給された形となる年払保険料相当額は月単位以下の期間でないために賞与扱いとなるのではないかという疑問が生じてくる。これについては,法人が役員・使用人を被保険者とし,役員・使用人およびその遺族を受取人とする養老保険等の年払いあるいは半年払いの保険料を負担した場合は,その保険料は賞与として取り扱うのではなく,報酬として取り扱うことになっているので心配はない。ただこの上積み保険料が過大報酬とみなされ損金不算入となるかどうかはいわゆる形式基準・実質基準等により判断することとなる(注3参照)。
? ?の場合例外として,非常勤役員に対し年俸または事業年度の期間俸を年1回又は年2回所定の時期に支給するようなものについては賞与に該当しないこととなっている。つまり,報酬として取り扱われる(法基通9−2−14)。
|
(注3) 損金算入できる給与,損金算入できない給与
|
|
一般に給与と称されるものの中には,報酬(給与),賞与,退職金の3つが含まれている。そして,この区分により税法上の取り扱いも違ってくる。それを一表にまとめると,大要次のようになる。 |
 |
《報酬(給料)・賞与・退職給与の税務取り扱い一覧図》
|
? 被保険者の税務
法人から支払われる保険料のうち,通常の契約の場合,終身保険部分の保険料だけが給与収入となり(例外については既述の本文参照),所得税の課税対象になる。
この課税対象となった給与収入の額は生命保険料控除の対象となる。
3.受取配当金の取り扱い
普通終身保険,定期保険特約付終身保険のいずれにあっても,その配当方式は,積立方式か,生存保険金の買い増し方式のいずれかによっている商品が大半である。
そこで,死亡保険金受取人が法人である契約の場合と役員・使用人の遺族である契約の場合に分け,またそれぞれを普通終身保険と定期保険特約付終身保険に分け,その取り扱いを述べていくことにする。
なお,平成11年4月から,高額加入者を対象にした契約通算扱特約(キャッシュバックシステム)が発売され,特約給付金の形で価格還元を行っている。この特約給付金は,積立配当金とされ,同様の処理となる。
(1) 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
? 法人の経理と税務
イ)普通終身保険(定期保険特約のないもの)の場合
- 配当積立額について通知を受けたときは,保険料を全額資産計上(保険料積立金)している場合には,この保険料積立金(資産計上額)から通知を受けた当期配当金の額を控除することができる(法基通9−3−8から類推)。
当期配当金の利息については,通知を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入することとなる(法基通9−3−8(注)2)。
〈設例〉 当期の配当金 100,000円 / 当期の配当積立金利息 24,000円
|
借 方 |
貸 方 |
|
保険料積立金
(資産の減少) |
100,000円 |
雑 収 入
(収益の発生) |
24,000円 |
|
|
|
(注) 配当金積立金の利息は雑収入として,その通知を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入,配当金積立金(勘定科目)の中に含め記帳しておく。
|
・この項(普通終身保険/死亡保険金受取人=法人)では保険料が全額資産計上されているから,配当金により生存保険金を買い増した場合は,契約者である法人がいったん契約者配当金を受け取った上で(配当金として受け入れ,保険料積立金から控除する形をとる。),直ちにこの配当金の額を買い増し生存保険金の保険料の支払いに充当したということになる。
すなわち,これを仕訳してみると次のようになる。
配当金として受け入れ,保険料積立金から控除する形をとると,
上述の仕訳の結果として,経理処理は不必要となる。
ロ)定期保険特約付終身保険の場合
一般に定期保険特約付終身保険の保険料は,終身保険部分と定期保険特約部分の保険料に区分表示されているので,ここでは表定保険料が区分表示されているとして,法人が受け取る配当金の取り扱いについて示すことにする。(現在はこれが一般的契約内容である。)
- 配当積立方式をとる契約の配当金については,その積み立てをした旨の通知を受けた日の属する事業年度の益金の額(雑収入)にこれを算入することとなる(法基通9−3−8)。
当期の配当金積立金の利息については,通知を受けた日の属する事業年度の益金の額(雑収入)に算入することとなる(法基通9−3−8(注)2)。
|
|
|
※ 雑収入のなかには当期の配当金の額と当期の配当金積立金の利息が含まれる。そして,配当金積立金(勘定科目)の中へ一括して経理しておく。
|
- 契約者配当金の額をもって生存保険金の買い増し保険料に充当する契約では,契約者である法人がいったん契約者配当金を受け取った上で,直ちにこれを保険料の払い込みに充当したということにほかならないから,この契約者配当金を受取配当金として益金算入(雑収入)する一方で,その充当に係る保険料(=受取配当金の額)を,保険料積立金として資産計上することになる。
この関係を整理すると,最終的には次のようになる。
? 被保険者の税務………課税関係は発生しない。
(2) 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
? 法人の経理と税務
イ)普通終身保険(定期保険特約のないもの)の場合
- 配当積立額について通知を受けたときは,契約者である法人は通知を受けた日の属する事業年度の益金の額(雑収入)にこれを算入する(法基通9−3−8)。当期の配当金積立金の利息についても合わせて益金の額(雑収入)に算入する(法基通9−3−8(注)2)。
契約者配当金は約款で契約者(法人)に支払われると規定されていることにより次のような取り扱いとなる。
|
|
|
※ 雑収入の中には,当期の配当金の額と配当金積立金の当期の利息の額を含む。 |
- 契約者配当金の額をもって生存保険金の買い増し保険料に充当する契約では,契約者である法人がいったん契約者配当金の額の通知を受けた日の属する事業年度の益金の額にこれを算入(法基通9−3−8),直ちにそれを保険料の払い込みに充当することになるから,契約者である法人は契約者配当金を益金算入(雑収入)する一方で,生存保険金の受取人が被保険者(役員・使用人)であれば,心情的には割り切れない点もあるが配当金の額相当額を給与として支払う形になろう。
これを仕訳すると次のようになる。
|
〈その1〉〈その2〉の仕訳を整理すると次のようになる。 |
上述の場合,被保険者が使用人であるときは問題ないが,役員であるときは,配当金が高額化してきている昨今,経過年数を経るに従いその配当金は大きくなり,これを上述のような形で止むをえず役員の報酬の上積み報酬として支払う形になると,これが報酬として認められるかどうか(法基通9−2−13),また仮に認められても過大な報酬として損金不算入となることも十分考えられる。
従って,配当金で生存保険金を買い増しする商品では,上述のような契約形態・内容になることをさけるべきではないだろうか。
一方,上述の場合,仮に,買い増しされる生存保険金の受取人が法人(=契約者)となっておれば,生存保険金の買い増しに充当した配当金の額を役員・使用人の給与とする必要がなくなる。したがって,充当した配当金の額は,保険料積立金として経理すればよいと考えられる。この場合の最終的な仕訳は次のようになるだろう。
ロ)定期保険特約付終身保険の場合
上述のイ)普通終身保険に準じた取り扱いとなる。
? 被保険者の税務
配当金で生存保険金等の買い増しを行う場合以外は課税関係を生じない。
生存保険金を買い増した場合,既述のように仮に保険金受取人を被保険者である役員・使用人としたとすると,配当金の額相当額が給与として役員・使用人の給与に上積みされることになる。そうすると,役員については定期の給与と認められない場合が当然考えられる。また,いわゆる実質基準・形式基準に対比してみると過大な報酬として損金不算入の処理がなされる場合も考えられる。
このような経理処理面での不安要素の発生が予測される以上,法人が契約者となり役員を被保険者として終身保険を契約するときは,死亡保険金受取人を法人とする契約形態としたい。生活心情からしてもしっくりしない経理処理をさけて通るように,ことを運ぶのが一番賢明な策ではないだろうか。
法人が契約者となり,役員・使用人を被保険者として終身保険に加入するねらいは役員・使用人の老後対策支援であるから,定年時を迎え契約者名義の変更をすることで十分その目的は達せられる。してみると,在職中は契約者=法人,死亡保険金受取人=法人という契約形態が一番しっくりいくように考えられるのだが,さて……。
4.受取生存保険金の取り扱い
一般に,終身保険商品から支払われる生存保険金には保険料の払込期間中,ある一定の間隔をおいて給付が行われる契約内蔵型のものから,配当金を満期日等を同じくする生存保険の一時払保険料に充当し,累積した生存保険金を保険料払済時ならびにその後はある一定期間ごとに給付するものなどがある。
(1) 生存保険金の受取人が法人である契約の場合
? 法人の経理と税務
生存保険金の受取人が法人である場合は,受取生存保険金を現金又は預金の形で受け入れ,一方,その受取生存保険金と同額を資産勘定として積み立てている保険料積立金からとりくずせばよい。この経理処理は昭和43年官審(法)29として出された個別通達(家庭計画保険の生存給付金および保険金に対する法人税および所得税の取扱いについて)の考え方によっている。
|
|
|
(注) この場合,生存保険金の受け取りに合わせて保険料積立金の額を平均的にとりくずすべきであるという意見がある。これによれば,受取生存保険金ととりくずした保険料積立金の額との差額が,保険差損益として,各年の受取生存保険金の額に応じて平均的に発生することになる。この考え方は,平成2年に出された「法人契約の個人年金保険」に関する個別通達(平2・5・30直審4−19)にも表れている。
|
ところで,この生存保険金がいくたびも支払われると,遂には資産勘定として積み立てている保険料積立金の額が受取生存保険金の額を下回ることになる。その場合は次のように仕訳される。
借 方 |
貸 方 |
|
保険料積立金
(資産の減少) |
×××× |
雑 収 入
(収益の発生) |
×××× |
|
|
? 被保険者の税務
課税関係は発生しない。
(2) 生存保険金の受取人が役員・使用人である契約の場合
? 法人の経理と税務
生存保険金の受取人が役員・使用人とされる契約では,その基本契約の契約形態は,契約者=法人,被保険者=役員・使用人,死亡保険金受取人=役員・使用人の遺族,である場合が一般的である。従って,この場合,生存保険金受け取り時の経理は次のように行うことになろう。
終身保険契約の保険料払込中に生存保険金の給付がある商品は,いわゆる生存保険内蔵型といわれるもので,払込保険料中に生存保険の保険料が含まれており,従ってこの保険料は給与としてすでに経理されているはずだから,生存保険金の給付が行われる時点で,あらためて法人に課税関係が発生するということはない。
一方,保険料払済時ならびにその後一定の期間をおいて支払われる生存保険金は,契約者配当金を満期時を同じくする生存保険の一時払保険料に充当,その累積額が給付されるのが一般的である。この場合も契約者配当金が一時払保険料に充当された時点で給与として経理処理されているはずだから,生存保険金の給付時点で,法人に課税関係は発生しない。
? 被保険者(=生存保険金受取人:役員・使用人)の税務
被保険者(一時払保険料に充当した保険料は既に被保険者の給与として課税されている。)が受け取る生存保険金は,保険契約期間中に一時金(生存保険金)の支払いが数回にわたって行われるものであっても,年金形式で毎年支払われるものではないから,(原則として)一時所得に該当する。
一時所得の金額の計算上控除される「支出した金額」とは,生命保険契約に係る保険料または掛金の総額とされている(所令183?二)が,契約継続中に支払われる生存保険金の場合には,その給付金の額を限度として控除するのが合理的であると一般に考えられている(個別通達昭和43年官審(法)29)。
従って,配当金でもって生存保険を買い増しする終身保険契約はもちろん,同時に生存保険内蔵の終身保険契約では終身保険の表定保険料累計額が「支出した金額」であり,生存保険金を受け取るごとに,表定保険料累計額から受け取った生存保険金の額だけ控除していくことになる。「支出した金額」がなくなれば,その後受け取る生存保険金は,その全額が一時所得の金額となる。
〈一時所得金額の計算〉
|
 |
|
(注) 生存保険金が支払われる都度,その金額と同額の「支出した金額」を計上し差し引くことになる。既受取生存保険金額が既払込保険料累計額を上回れば「支出した金額」はなくなる。特別控除額のみ(50万円が限度)適用されることになる。
|
5.受取死亡保険金の取り扱い
(1) 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
? 法人の経理と税務
被保険者である役員や使用人が死亡し,その死亡保険金や配当金積立金を法人が受け取り,その死亡保険金を死亡退職金または弔慰金として役員・使用人の遺族に支払った場合の経理処理は次の通りである。
イ)死亡保険金を受け取った時
それまでに積み立てたその契約の保険料額(当該契約の保険料積立金)を資産からとりくずし,受け取った死亡保険金と保険料積立金との差額を雑収入として益金に算入する。
借 方 |
貸 方 |
|
保険料積立金
(資産の減少) |
×××× |
雑 収 入
(収益の発生) |
××××(注1) |
|
|
|
(注1) 保険差損が生じたときは,借方に雑損失として計上する。
(注2) 死亡保険金の益金算入時期
会社が,退職金原資として,役員を対象に生命保険契約を締結するといったことはよく見受けられるが,その役員などが死亡した場合,会社が受け取る生命保険金の益金算入時期はいつにすればよいのだろうか。よく出る疑問である。
一般的に考えられる処理は,?保険事故が発生したとき,?保険会社から保険金支払いの通知を受けたとき,?実際に保険金の支払いを受けたとき,の3通りである。税務では,?の保険会社から支払い通知を受けた時点で益金に計上すればよい,と一般にされている。
つまり,実際に受け取るべき保険金額が確定したときに,益金に算入すればよいというわけである。ただし,支払通知を遅らせるような操作が行われれば,この限りではないことは当然のことである。
|
ロ)すえ置配当の配当金積立金(配当金利子含む。)を受け取った時
未計上の配当金積立金の利子があれば雑収入として受け入れる。
借 方 |
貸 方 |
|
配当金積立金
(資産の減少) |
××× |
雑収入(注)
(収益の発生) |
×× |
|
|
(注) 未配分配当金や配当金積立金の利子等の未計上分など
|
ハ)受け取った死亡保険金等を被保険者の遺族に死亡退職金および弔慰金として支払った時,
弔慰金として支払った金額は社会通念上妥当なものであれば,原則として損金に算入できる。
借 方 |
貸 方 |
退 職 金
(費用の発生) |
×××× |
弔 慰 金
(費用の発生) |
×××× |
|
|
|
? 受取人(役員・使用人の遺族)の税務
遺族が法人から受け取った死亡退職金および弔慰金に対する課税は次のようにする。
イ)死亡退職金
死亡退職金は相続または遺贈により取得したものとみなされ,相続税が課せられるが,受取人が相続人である場合は法定相続人1人について500万円まで非課税となる(相法3?二,同12?六)。
ロ)弔慰金
相続税法上,弔慰金は非課税扱いとなるが,ある一定限度(業務上死亡=月額給与の3年分,その他死亡=月額給与の6か月分が限度)を超えると退職金とみなされ,課税される(相基通3−20)。
(2) 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
●受取人(役員・使用人の遺族)の税務
役員,使用人が死亡し,死亡保険金をその遺族が受け取ったときは,個人で保険に加入していた場合(契約者・被保険者が役員または使用人で,受取人が遺族の場合)と同様,相続または遺贈により死亡保険金を取得したものとみなされ,相続税の課税対象になる(相法3?一)。
なお,保険金受取人が被保険者の相続人である場合には「500万円×法定相続人の数」の金額まで非課税財産として控除できる(相法12?五)。
保険金受取人が被保険者の相続人以外の時は遺贈されたものとみなされて,上記非課税財産の特典はなくなる。
ところで,一般に契約者が法人である場合,その配当金は配当金積立金として法人の資産に計上されている。そして,死亡保険金が支払われるときにこの配当金積立金は約款の定めにより,死亡保険金受取人である役員・使用人の遺族へ支払われる。従って,法人においては,この配当金積立金をとりくずし,雑損失として損金に算入することになる。
6.受取高度障害保険金の取り扱い
(1) 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
被保険者である役員や使用人が高度障害になったことにより高度障害保険金が支払われる場合,約款の定めるところにより直接被保険者にこの保険金が支払われるものと,契約者である法人に支払われるものの2通りがある。
● 受取人が約款の定めるところにより役員や使用人である場合
契約者である法人は,それまでに資産に計上していた当該契約の保険料積立金(資産勘定)をとりくずし,これを雑損失として損金に計上する。配当金積立金を資産に計上していた場合は,これをとりくずし,同額を雑損失として損金に算入する。
借 方 |
貸 方 |
|
保険料積立金
(資産の減少) |
×××× |
配当金積立金
(資産の減少) |
×××× |
|
|
高度障害保険金を,被保険者本人,あるいは被保険者の配偶者もしくは直系血族又は生計を一にするその他親族が受け取ったときは,全額非課税扱いとなる(所法9?十六,所令30一,所基通9−20,同9−21)。また,高度障害保険金と同時に支払われる配当金や配当金積立金は約款の定めにより同一受取人に支払われるから,この場合は高度障害保険金の一部と考えるのが素直な見方であり,全額非課税扱いとなろう。
● 受取人が法人の場合
死亡保険金を受け取ったときと同様に,それまで資産に計上してきた保険料積立金等を取りくずし,受け取った高度障害保険金等と保険料積立金等との差額を雑収入(雑損失)として益金(損金)に算入する。
借 方 |
貸 方 |
|
保険料積立金
(資産の減少) |
×××× |
配当金積立金
(資産の減少) |
×××× |
雑 収 入
(収益の発生) |
×××× |
|
|
受け取った高度障害保険金等の一部を見舞金として役員・使用人に支払ったときは,原則として福利厚生費として処理する。その見舞金が社会通念上,妥当な額を超えるものであれば,その超える部分の金額について,賞与あるいは退職金として処理されることとなろう。
見舞金を受け取った役員・使用人の税務は,その見舞金が社会通念上,妥当な額であれば非課税となる(所基通9−23)。
(2) 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
保険料払い込みの段階で給与として経理処理されているから,高度障害保険金が被保険者本人等に支払われても,契約者である法人の経理は不要である。
ただし,配当金積立金を資産に計上している場合には,これをとりくずし,同額を雑損失として損金に算入する。
高度障害保険金を,被保険者本人,あるいはその配偶者もしくは直系血族又は生計を一にするその他親族が受け取ったときは,非課税扱いとなる(所基通9−21)。
高度障害保険金とともに支払われる配当金や配当金積立金は約款の定めにより同一受取人に支払われるから,この場合は高度障害保険金の一部と考えるのが素直な見方であり,全額非課税扱いとなろう。
7.受取障害給付金,入院給付金等の取り扱い
(1) 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
被保険者である役員や使用人の傷害等により,傷害・疾病関係特約から障害給付金,入院給付金等が支払われる場合,約款の定めるところにより直接被保険者にこれらの給付金が支払われるものと,契約者である法人に支払われるものの2通りがある。そこで,この両者に分けてその経理処理を述べていく。
● 受取人が被保険者本人の場合
? 被保険者である役員や使用人の傷害等により,障害給付金,入院給付金が法人を経由して役員・使用人に支払われる場合の経理処理は次のように行う。
? 法人を経由した給付金が役員・使用人に支払われた時
受取人である役員・使用人の税務は次のようになる。
自己の身体の傷害に基因して支払いを受ける障害給付金・入院給付金は非課税扱いとなる(所令30一)。
●受取人が法人の場合
? 障害給付金,入院給付金を受け取った時
受け取った額を雑収入として益金に算入する。
|
|
(注) 一般に法人が給付金を受け取る段階で資産のとりくずしは行わない。なぜなら,一般に傷害・疾病関係特約については保険料の払い込み段階で損金に算入されており,諸給付金に対応する資産計上がないから。
|
? 受け取った障害給付金,入院給付金を役員・使用人へ支払った時
支払った額は原則として(社内慶弔規程を尊重)損金に算入される。
見舞金を受け取った役員や使用人は,その額が社会的にみて妥当な額であれば非課税となる(所基通9−23)。
(2) 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
障害給付金,入院給付金は被保険者本人に支払われる。
自己の身体の傷害に基因して支払いを受ける障害給付金,入院給付金等は非課税扱いとなる(所令30一)。また,その支払いを受ける者が,その身体に傷害を受けた者の配偶者もしくは直系血族又は生計を一にするその他親族であるときも非課税扱いとなる(所基通9−20)。
8.契約者貸付の取り扱い
(1) 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
- 契約者貸付を受けた場合の経理処理は次のように行う。
- 利息繰り入れ時の経理処理
利息は貸付日から1年後の契約応当日の前月1日から翌月末日までに払い込まれた場合は利息繰り入れ前に処理されたものとされ,損金に算入される。翌月末日までに払い込まれなかった場合は次の仕訳のように利息を借入金に繰り入れることになる。
- 契約者貸付を返済した場合の経理処理は次のように行う。
借 方 |
貸 方 |
借 入 金
(負債の減少) |
×××× |
支 払 利 息※
(費用の発生) |
×××× |
|
|
|
※返済時までの未払利息部分 |
- 契約者貸付を受けている間に,死亡・解約等があった場合は当該契約の保険料積立金のとりくずし,契約者貸付の元利金を精算して受取額(元利金精算分を含む。)と保険料積立金との差額を雑収入,もしくは雑損失として処理する。
借 方 |
貸 方 |
現金又は預金
(資産の増加) |
×××× |
借 入 金
(負債の減少) |
×××× |
支 払 利 息
(費用の発生) |
×××× |
|
保険料積立金
(資産の減少) |
×××× |
雑 収 入
(収益の発生) |
×××× |
|
|
|
(注) 配当金積立金が資産勘定に計上されているときは,当該契約分の配当金積立金をとりくずし,貸方にあげることとなる。
|
(2) 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
契約者は法人,死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合,保険料は払い込みのつど,被保険者(役員・使用人)の給与として課税されるので,この契約の責任準備金は被保険者に帰属するものと考えられる。従って,法人がこういった契約形態の契約から貸し付けを受けることは,本来問題があり,とくに契約消滅時の取り扱いにおいてトラブルの原因となるのでさけて通るべきであろう。
しかし,現実にこうしたケースが出てきた場合は次のような経理処理が考えられる。
? 法人が契約者貸付を受けた場合
実務上は,契約者(法人)の求めにより,約款の定めるところにより契約者貸付が行われる。
この場合の経理は次のように行う。
契約者貸付を返済したときの経理は次のように行う。
借 方 |
貸 方 |
借 入 金
(負債の減少) |
×××× |
支 払 利 息
(費用の発生) |
×××× |
|
|
|
? 契約消滅時の契約者貸付の取り扱い
現在はトラブルの原因となるのでこうしたケースは殆ど行われないと思うが,契約者貸付が行われている契約者=法人,被保険者=役員・使用人,死亡保険金受取人=役員・使用人の遺族といった契約で,死亡・高度障害があったときは,契約者貸付元利金精算後の保険金額が支払われることになる。この場合,法人と被保険者(またはその遺族)との間で契約者貸付元利金の負担について問題が生じてくる。
この解決は,責任準備金等の実質的な帰属を考えると,精算される契約者貸付元利金は法人が負担し,契約者貸付金がなかったとした場合の保険金額が被保険者の遺族,また被保険者に支払われることにすべきだろう。
従って,法人は契約者貸付金の返済時と同様の経理処理を行い,受取人は契約者貸付金がなかったとした場合の金額について課税されることになろう。
9.保険料の自動振替貸付の取り扱い
(1) 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
保険料の自動振替貸付(以下「自振」という。)を受けられる契約については,自振を受けた時点では経理処理を行わず,契約消滅時,契約転換時の精算時点で調整を行うといった簡便法も考えられるとされているが,一般には自振通知のつど,借入金として負債に計上し,その借入金による保険料については,通常の形で払い込まれる保険料の処理と同様に処理することとなる。
借 方 |
貸 方 |
保険料積立金
(資産の増加) |
××××(注1) |
支払利息
(費用の発生) |
×××(注2) |
|
|
|
|
(注1) 仕訳例は傷害・疾病関係特約の付加されていない普通終身保険の場合によったが,定期保険特約付終身保険で保険料区分がなされている場合は,保険料積立金のほかに,費用の発生として定期保険特約保険料や傷害・疾病関係特約保険料をたてなければいけない。
(注2) 自振利息は,利息前取り方式がとられていることによる。
|
自動振替貸付金の次期以降の利息は,保険料払込猶予期間の満了ごとに利息の繰り入れが行われるが,繰り入れ通知を受けた法人は次のような経理処理を行う。
自動振替貸付金を返済したときは,
借 方 |
貸 方 |
|
現金又は預金
(資産の減少) |
×××× |
支払利息
(費用の取消) |
××××(注) |
|
|
|
(注) 支払利息(費用の取消)は,自振貸付金が利息前取り方式によっているために未経過利息が発生する場合がある。利息の支払が前期以前の場合は,前期損益修正益とするのが正当であるが,少額の場合は,実務では,費用の取消で処理するのが一般的である。
|
なお,自振中に死亡・解約等があった場合は,当然,自振借入金を精算するとともに当該契約の保険料積立金をとりくずし,差額を雑収入もしくは雑損失として処理する。
借 方 |
貸 方 |
現金又は預金
(資産の増加) |
×××× |
 |
|
借 入 金
(負債の減少) |
|
|
現金又は預金
(資産の減少) |
×××× |
 |
支 払 利 息
(費用の取消) |
×××× |
雑 収 入
(収益の発生)
|
×××× |
|
|
(2) 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
契約者=法人,被保険者=役員・使用人,死亡保険金受取人=役員・使用人の遺族という契約においても,自動振替元利金は契約者である法人に対する立替金として貸し付けられることは,契約者貸付の場合と同様である。
従って,前述の契約者貸付「死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合」と同様,問題ありといえるが,現実に自振があった場合は(1)に準じて処理することとなる。
また,高度障害・死亡等による契約消滅時の自動振替貸付の処理は,前述の契約者貸付の項の(2)?契約消滅時の取り扱いと同様のことがいえる。
10.失効・復活の取り扱い
(1) 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
? 失効
保険契約が失効した場合,その時点では現実に保険料の支払いは行わないのだから経理処理は不要である。
なお,保険料積立金のとりくずしは,解約時(解約払戻金請求時)とするのが妥当と考えられる。次項の解約時の処理と同じ形になる。
借 方 |
貸 方 |
現金又は預金
(資産の増加) |
×××× |
雑 損 失
(費用の発生) |
×××× |
|
保険料積立金
(資産の減少) |
×××× |
|
|
|
? 復活
保険契約を復活した場合,支払った保険料は次のように経理処理する。
終身保険の場合は,支払った保険料を資産に計上する。ただし,傷害・疾病関係特約が付加されていれば,その部分は費用の発生として損金に算入する。
定期保険特約付終身保険の場合,終身保険部分は資産に計上,定期保険特約部分と特約保険料部分(年払い・半年払い・月払いの場合)はそれぞれ費用の発生として損金に算入する。
定期保険特約付終身保険の場合の仕訳を示すと次のようになる。
借 方 |
貸 方 |
保険料積立金
(資産の増加) |
×××× |
定期保険特約保険料
(費用の発生)※ |
×××× |
傷害等特約保険料
(費用の発生)※ |
×××× |
|
|
|
※この節の1を参照。 |
(2) 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
? 失効
イ)法人の経理と税務
保険契約が失効した場合,現実に保険料の支払いはないのであるから経理処理は不要である。
ロ)被保険者の税務
現実に保険料の支払いがない限り,みなし給与として課税されることもなく,また生命保険料控除を受けることもできない。
? 復活
イ)法人の経理と税務
保険契約を復活した場合,原則として支払った保険料は定期保険特約付終身保険の定期保険特約部分,また付加された傷害・疾病関係特約部分の保険料を除きその全額がみなし給与として,損金に算入できる。ただし,役員に対して過大報酬とみなされる額が支払われたとき,また定期の給与以外のものとされたときは損金不算入となる場面も生じてくる。また,定期保険特約部分の保険料,傷害等特約部分の保険料は福利厚生費等として損金に算入される。(例外あり。この節の1参照)
ロ)被保険者の税務
支払われた保険料は,みなし給与となった部分に所得税が課せられる。また,その額が生命保険料控除の対象となる。
11.解約時の取り扱い
(1) 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
保険契約の解約時の経理処理は,解約返戻金(解約時に支払われる配当金を含む。)を受け入れると同時に,当該契約の保険料積立金をとりくずし(配当金積立金があるときはこれもとりくずす。),受取額との差額を雑収入もしくは雑損失として処理する。
借 方 |
貸 方 |
現金又は預金
(資産の増加) |
×××× |
雑 損 失
(費用の発生) |
×××× |
|
保険料積立金
(資産の減少) |
×××× |
配当金積立金
(資産の減少) |
×××× |
|
|
(2) 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
契約者=法人,死亡保険金受取人=役員・使用人の遺族である終身保険契約の保険料は,定期保険特約保険料や傷害等特約保険料を除き被保険者に対するみなし給与として処理されており,その意味では解約返戻金は被保険者に帰属すると考えられる。しかし,約款上の解約返戻金請求権者は契約者(法人)であるので,被保険者には請求権はない。
従って,この生命保険契約を解約する場合(通常は被保険者の同意が必要)の解約返戻金は契約者に返還されるので,契約者である法人が解約返戻金を受け取った場合は,生命保険解約返戻金等として雑収入に計上されるが,被保険者(役員・使用人)には課税関係は生じない。
ところが,この返戻金を被保険者に分配した場合には,被保険者の給与として扱われる。しかし,これによって過去の被保険者の課税関係には影響ないとされている。つまり,保険料払い込みの段階でみなし給与として所得税が課せられているが,ここで再び返戻金の分配について課税されることになっても,さきに課された所得税は返還されないということである。法人が解約返戻金相当額を役員・使用人に支払ったときの仕訳は次のとおり。
|
(注) 役員に解約返戻金を支払った場合,役員賞与として損金不算入。
|
12.定期保険特約の途中付加・増額時の取り扱い
(1) 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
保険期間の途中で終身保険に定期保険特約を付加したり,また定期保険特約付終身保険の保障部分を契約の途中で増額したりしたときは,新規付加・増額部分の保険料を含んだ保険料を払い込んだ時に次のような経理処理を行えばよい。
借 方 |
貸 方 |
保険料積立金
(資産の増加) |
×××× |
定期保険特約保険料
(費用の発生) |
×××× |
|
|
|
(2) 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
法人が契約の途中で定期保険特約を新たに付加したり増額したときは,保険料を支払った時点で次のような経理処理を行う。
普通終身保険の保険料は,役員・使用人に対する給与として処理し,定期保険特約部分や傷害・疾病関係特約部分の保険料は,一種の福利厚生費として,期間の経過に応じて損金の額に算入する。ただし,年払い,半年払い,月払いの保険料を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは,これが認められている(法基通2−2−14)。
借 方 |
貸 方 |
給 与
(費用の発生) |
×××× |
定期保険特約保険料
(費用の発生) |
×××× |
傷害等特約保険料
(費用の発生) |
×××× |
|
|
|
|
(注)上記仕訳において,「役員又は部課長その他特定の使用人のみ」を被保険者としている場合,定期保険特約部分の保険料は給与として処理される。
また「役員又は部課長その他特定の使用人のみ」を傷害特約等に係る給付金の受取人としている場合も当該特約保険料は給与となる。
|
13.災害(傷害)・疾病関係特約の途中付加・増額時の取り扱い
一般に保険期間の途中で災害・疾病関係特約を途中付加したり増額した場合,払い込みのつど,増額保険料を次のような方法で処理することとなる。
(1) 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
|
|
|
(注) 特約の給付金受取人が役員又は部課長その他特定の使用人のみである場合は給与。 |
(2) 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
普通終身保険や定期保険特約付終身保険に災害(傷害)・疾病関係特約を新たに付加したり増額したりしたときは次のように処理される。
|
|
|
(注)傷害等特約保険料は福利厚生費として処理される。
特約の給付金受取人が役員又は部課長その他特定の使用人のみである場合は給与。
|
14.減額時の取り扱い
(1) 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
減額は契約の一部解約と考えられ,返戻金もあることだから,返戻金を受け入れると同時に保険料積立金をとりくずし,そのとりくずし額と返戻金の差額を益金(損金)処理する。
保険料積立金のとりくずし方法としては,減額に伴う返戻金と同額をとりくずすことも考えられるが,減額部分の保険金額と減額前の保険金額との按分比で行うのが一般的であるとされている。
たとえば,減額時の保険料積立金が1,000万円ある普通終身保険契約で,一部減額(当初保険金額5,000万円を4,000万円に減額した。)により減額返戻金100万円を受け取った場合について,その仕訳を考えてみると,
借 方 |
貸 方 |
現金又は預金
(資産の増加) |
100万円 |
雑 損 失
(費用の発生) |
100万円 |
|
|
|
一般に,減額時には契約者貸付,自動振替貸付の精算を行うこととなっているので,法人側も貸付金返済の経理を併せてすることになる。
借 方 |
貸 方 |
現金又は預金
(資産の増加) |
×××× |
借 入 金
(負債の減少) |
×××× |
支 払 利 息
(費用の発生) |
×××× |
雑 損 失
(費用の発生) |
×××× |
|
|
|
借 方 |
貸 方 |
現金又は預金
(資産の増加) |
×××× |
借 入 金
(負債の減少) |
×××× |
雑 損 失
(費用の発生) |
×××× |
|
保険料積立金
(資産の減少)
|
×××× |
支 払 利 息
(費用の取消) |
×××× |
|
|
|
(注)自振貸付金の利息は前取り方式なので通常未払利息は発生しないが,利息繰り入れの関係からこれが発生した場合は(借方)に支払利息をたてることになる。
上記は未経過利息のある場合である。
|
(2) 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
減額に伴い減額返戻金請求権者である契約者(法人)が受け取る返戻金は,解約の場合と同様に被保険者に帰属すべき性質のものである。
従って,減額返戻金を法人が受け取り,それを被保険者に分配した場合保険料払い込みの時点で被保険者の給与として課税されている点を考えるとなじめない処理であるが,現行税法では,返戻金の分配金をあらためて給与として被保険者に支払った処理となる。
15.払済保険へ変更時の取り扱い
(1) 払済保険へ変更時の経理処理
払済保険については,従来は「既往の資産計上額を再評価する必要はなく,そのまま保険事故の発生または解約・失効等により契約が終了するまで資産計上を継続する。」とされていた。しかし,平成14年2月15日付の法人税基本通達の一部改正(課法2−1,課審4−25)により,法人税基本通達9−3−7の2(払済保険へ変更した場合)が新設され,原則として,その変更時の解約返戻金相当額と既契約の資産計上額との差額を損益として計上し,精算処理(洗替経理処理)を行うこととなった。既契約の保険料の全額(傷害特約等に係る保険料の額を除く。)が役員または使用人に対する給与となる場合は,除かれる。
ただし,養老保険,終身保険および年金保険(定期保険特約が付加されていないものに限る。)から同種類の払済保険に変更した場合は,既往の資産計上額をそのまま計上することも認められる。
死亡保険金受取人が法人である場合に,原則により,洗替経理処理を行えば,次のようになる。
借 方 |
貸 方 |
|
保険料積立金
(資産の減少)
|
×××× |
雑 収 入
(収益の発生) |
××× |
|
|
保険料の全額が資産計上されているような契約では,既往の資産計上額の方が解約返戻金相当額よりも多くなるケースもある。その場合には,差額が雑損失となる。
借 方 |
貸 方 |
保険料積立金
(資産の増加) |
×××× |
雑 損 失
(費用の発生) |
×××× |
|
|
|
(2) 払済保険変更時に契約者貸付,自動振替貸付がある場合
払済保険への変更時には契約者貸付,自動振替貸付の精算が行われるので,その経理処理を契約形態別に次のとおり行う。
? 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
借 方 |
貸 方 |
保険料積立金
(資産の増加) |
×××× |
借 入 金
(負債の減少) |
×××× |
支 払 利 息
(費用の発生) |
××× |
|
保険料積立金
(資産の減少)
|
×××× |
雑 収 入
(収益の発生) |
××× |
|
|
? 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
なお,精算された元利金を法人が被保険者である役員・使用人に支払うべきであることは,既述の「8.契約者貸付の取り扱い」と同様である。
借 方 |
貸 方 |
借 入 金
(負債の減少) |
×××× |
支 払 利 息
(費用の発生) |
××× |
|
|
|
|
(注) 払済保険に変更する前に,法人が借入金を返済しておれば上のような経理処理は必要としない。現金または預金の払い出しで借入金を精算することになる。
|
16.延長定期保険へ変更時の取り扱い
(1) 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
? 延長定期保険へ変更時の経理処理
「延長定期保険」とは,保険契約をもとの保険金と同額の定期保険に変更することをいい,変更後は保険料の払い込みは行われず,保険契約の転換とは区別される。この場合には,変更時における責任準備金に相当する金額をもって一時払いの定期保険の保険料に充当され,これに応じて算定された保険期間について変更前と同じ保障が行われることになるが,保険金は死亡保険金のみであって満期保険金のないのが原則である。しかし,一時払いの定期保険の保険料に充当したとした場合に算定される保険期間の末日が保険会社の定める範囲を超える場合には,その延長定期保険に係る保険期間はその範囲内にとどめるため,保険料の余分が生ずるが,これについては,生存保険金として支払われている。
ところで,この場合の取り扱いであるが,例えば,死亡保険金の受取人が法人となっている終身保険を延長定期保険に変更した場合には,次のように取り扱われる。
延長定期保険へ変更時に資産に計上してある保険料積立金のうち,延長定期保険の保険料に充当される金額を超える部分は損金に算入される(昭47.3.9 直審4−13から類推)。
すなわち,従来の契約を解約し,解約返戻金で延長定期保険を購入したと考え,保険差損の計上を認めている。
なお,変更後新たに積まれる保険料積立金については,延長定期保険に生存保険金がある場合と,ない場合で経理処理が異なってくる(昭47.3.9 直審4−13)。
イ)生存保険金がある場合
たとえば,既払込保険料(資産計上額)100万円の契約を延長定期保険に変更した場合,変更時の解約返戻金が70万円,延長生存保険金が40万円あったとしよう。
この契約の変更時の経理処理は次のように行う。
借 方 |
貸 方 |
保険料積立金(注1)
(資産の増加) |
70万円 |
雑 損 失
(費用の発生) |
30万円 |
|
|
|
|
(注1) 解約払戻金額(=延長定期保険への保険料充当金)。
(注2) 変更時まで計上されていた資産(保険料積立金)のとりくずし額。 |
この場合,70万円の保険料積立金は契約消滅時まで資産に計上し,延長定期保険消滅時にとりくずすこととなる。
なお,上記は昭和47.3.9直審4−13に基づく処理であるが,この処理では資産計上額が実体に比し過大となること,および,昭和55.12.25の法人税基本通達の改正で税務当局の定期付養老保険支払保険料に対する取り扱いに47年当時と変化が生じていること等から,私見ではあるが,次のような処理も考えられるのではなかろうか。
借 方 |
貸 方 |
保険料積立金
(資産の増加) |
40万円 |
前 払 費 用
(資産の増加) |
27万円 |
定期保険料
(費用の発生) |
3万円 |
雑 損 失
(費用の発生) |
30万円 |
|
|
|
|
(注) 一時払保険料充当額(解約返戻金)から延長生存保険金額を控除したものを一時払定期保険料と考える。上記では70万円−40万円=30万円。うち3万円が当期の保険料。27万円は次期以降の保険料であったとした。
|
ロ)生存保険金がない場合
前払費用として,変更後の延長定期保険の経過に応じて損金に算入する。
たとえば,延長定期保険に変更時までの既払込保険料が100万円,解約返戻金が70万円で,生存保険金がなく,延長期間が5年10か月,変更月は11月,3月決算法人であった場合,変更時の経理処理は次のように行う。
借 方 |
貸 方 |
前 払 費 用
(資産の増加) |
65万円 |
定期保険料
(費用の発生) |
5万円 |
雑 損 失
(費用の発生) |
30万円 |
|
|
|
|
(注) 定期保険料5万円は一時払定期保険料のうちの当期分で,70万円×として求める。(5か月は11月〜3月)
|
? 延長定期保険変更時に契約者貸付,自動振替貸付があった場合の経理処理
一般に延長定期保険変更時に契約者貸付,自動振替貸付などがあったときは,これを精算することになっているので,次のように経理する。
借 方 |
貸 方 |
前 払 費 用
(資産の増加) |
×××× |
定期保険料
(費用の発生) |
×××× |
借 入 金
(負債の減少) |
×××× |
支 払 利 息
(負債の減少) |
×××× |
雑 損 失
(費用の発生) |
×××× |
|
|
|
|
(注) 生存保険金がない場合を例にとり仕訳例を示した。 |
借 方 |
貸 方 |
前 払 費 用
(資産の増加) |
×××× |
定期保険料
(費用の発生) |
×××× |
借 入 金
(負債の減少) |
×××× |
雑 損 失
(費用の発生) |
×××× |
|
保険料積立金
(資産の減少)
|
×××× |
支 払 利 息
(費用の取消) |
××× |
|
|
|
(注) 生存保険金がない場合を例にとり仕訳例を示した。
自振貸付金の利息は前取り方式なので通常未払利息は発生しないが,利息繰り入れの関係からこれが発生した場合には(借方)に支払利息をたてることになる。
上記は未経過利息がある場合である。
|
(2) 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
? 延長定期保険へ変更時の経理処理
延長定期保険への変更の場合は,既払込保険料が給与として損金経理されているので,契約者である法人として特別の経理処理は生じない。また,税務上も何ら課税関係は生じない。
なお,被保険者についても課税関係は生じない。
? 延長定期保険変更時に契約者貸付,自動振替貸付があった場合の経理処理
法人は貸付金精算額と同額を被保険者に支払い,契約者貸付金等の返済時と同様の経理処理をすべきであろう。
17.減額・払済保険・延長保険から原契約へ復旧時の取り扱い
原則的には,原契約へ復旧するときに要する保険料額を,保険料の払い込み時の経理処理方法と同じように,受取人の契約形態に応じて仕訳し処理をすることとなる(法基通9-3-7の2参照)。
被保険者である役員・使用人にあっては,法人において給与として経理された額が所得税の課税対象となる。また,この給与収入として課税された額は生命保険料控除の対象となる。
なお,役員については過大な報酬として,また定期の給与でないとして損金不算入とされる場合も考えられるので注意を要する。
18.法人契約を転換したときの経理処理(いわゆる転換契約)
(1) 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
? 転換のときの経理と税務(法基通9−3−7から類推)
法人がいわゆる契約転換制度によりその加入している終身保険又は定期付終身保険を他の終身保険,定期保険又は定期付終身保険に転換した場合には,資産に計上している保険料の額のうち,転換後契約の責任準備金に充当される部分の金額を超える部分の金額をその転換をした日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。
この場合,資産計上額(帳簿価格)のうち転換後契約へ充当した部分の金額(転換価格=転換前責任準備金と配当金の合計)については,その転換のあった日に保険料の一時払をしたものとして,転換後契約の内容(たとえば養老保険であるとか,定期保険であるとかいったような内容をさす。)に応じて法人税基本通達9−3−4から9−3−6までの例により経理処理を行うことになっている。
転換後契約が定期付終身保険であるとすると,転換は実務上,転換価格の処理により,次の3通りの方法がある。
? 転換価格をすべて,転換後契約の終身保険部分の一時払保険料に充当する方法
? 転換価格を転換後契約の終身保険部分と定期保険部分とに分割し,それぞれの一時払保険料に充当する方法
? 転換価格をすべて,転換後契約の定期保険部分の一時払保険料に充当する方法
各転換の仕組みを図示すると,次のようになる。
設例により,それぞれの方法による転換時の経理処理を示してみる。
〈設例〉定期付終身保険(積立配当)を定期付終身保険(定期部分の保険期間は20年)に転換した場合
|
 |
被転換契約に係る資産計上額(保険料積立金) 200万円 |
|
 |
資産に計上してある積立配当金(配当金積立金) 20万円 |
|
 |
転換時精算配当金 5万円 |
|
 |
転換価格(責任準備金+ + )
150万円 |
?の方法による場合(転換価格全額を終身保険部分の一時払保険料に充当)
借 方 |
貸 方 |
保険料積立金
(資産の増加) |
1,500,000円 |
雑 損 失
(費用の発生) |
700,000円 |
|
保険料積立金
(資産の減少)
|
2,000,000円 |
配当金積立金
(資産の減少) |
200,000円 |
|
|
?の方法による場合(転換価格150万円を終身保険部分50万円,定期保険部分100万円に分けて充当)
借 方 |
貸 方 |
保険料積立金
(資産の増加) |
500,000円 |
前 払 費 用
(資産の増加) |
975,000円 |
定期保険料※
(費用の発生) |
25,000円 |
雑 損 失
(費用の発生) |
700,000円 |
|
保険料積立金
(資産の減少)
|
2,000,000円 |
配当金積立金
(資産の減少) |
200,000円 |
|
|
|
 |
?の方法による場合(転換価格全額を定期保険部分の一時払保険料に充当)
借 方 |
貸 方 |
前 払 費 用
(資産の増加) |
1,462,500円 |
定期保険料※
(費用の発生) |
37,500円 |
雑 損 失
(費用の発生) |
700,000円 |
|
保険料積立金
(資産の減少)
|
2,000,000円 |
配当金積立金
(資産の減少) |
200,000円 |
|
|
|
 |
? 転換時に契約者貸付,自動振替貸付があった場合の経理処理
契約転換に伴ってこれらの貸付は精算される。
- 契約者貸付,自動振替貸付の精算の場合(貸付金の返済処理のみ記載)
借 方 |
貸 方 |
借 入 金
(契約者貸付)
(負債の減少)
|
×××× |
支 払 利 息
(費用の発生) |
×××× |
|
|
|
|
(注) 自動振替貸付の場合は,利息先取りのため,通常支払利息を生じない。 |
? 転換後の上乗せ契約
転換後の上乗せ契約部分は,通常の新規契約同様に,法人税基本通達9−3−4から9−3−6の2により経理を行う。転換後契約が終身保険の場合はこの節の冒頭「2.支払保険料の取り扱い」に準ずればよい。
(2) 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
みなし給与として実質的には被保険者が保険料を負担しているわけであり,転換後はみなし給与の額が変わるにすぎない。また,この転換後の上乗せ部分については,毎期の給与が増加したと考えることができるので,賞与とはならず給与になると考えられる。
19.名義変更時の取り扱い
(1) 死亡保険金受取人が法人である契約の場合
〈ケース?〉A法人・A法人→B法人・B法人への名義変更
被保険者たる役員又は使用人が転籍すること等によって,契約者および受取人が転籍先法人へ変更されることがある。この場合には,転籍前の法人で資産に計上してあった保険料積立金をとりくずし,転籍後の法人へ移す必要がある。これには2通りの方法が考えられる。
? 有償で譲渡する場合
転籍前の法人は,譲渡代金を受け入れ,資産に計上していた保険料積立金をとりくずす(すえ置配当の配当金積立金がある場合は同様にとりくずす)。この場合,譲渡代金と資産のとりくずし額との差額は雑損失(雑収入)として損金(益金)に算入する。
借 方 |
貸 方 |
※現金又は預金
(資産の増加)
|
×××× |
雑 損 失
(費用の発生) |
×××× |
|
保険料積立金
(資産の減少)
|
×××× |
配当金積立金
(資産の減少) |
×××× |
|
|
※譲渡代金 |
なお,譲渡代金(権利の評価)としては,変更時の解約返戻金(積立配当金等を含む。)と一般には考えられているが(所基通36−37),譲渡代金より変更時の保険契約の価額(解約返戻金および積立配当金,前納保険料)が大きいときは,転籍前法人の低廉譲渡となり,その差額が税務上,寄付金となることがあるから,変更時の保険契約の価額をもって譲渡代金とすることが望ましい。上記仕訳例は,譲渡代金と保険契約の価額が同額である場合の一例である。
一方,転籍を受け入れた企業では,次の経理を行う。
すなわち,変更時の保険契約の価額を資産に計上(解約返戻金額を保険料積立金に,積立配当金は配当金積立金に計上)する。譲渡代金と資産計上額との差額は,雑収入(雑損失)として益金(損金)に算入する。下記仕訳例は譲渡代金より保険契約の価額(資産計上額)が大きかった場合によっている。
借 方 |
貸 方 |
保険料積立金
(資産の増加)
|
×××× |
配当金積立金
(資産の増加) |
×××× |
|
現金又は預金
(資産の減少)
|
×××× |
雑 収 入
(収益の発生) |
×××× |
|
|
なお,譲渡代金より変更時の保険契約の価額が小さい場合は,転籍先法人の高価買入となり,その差額が税法上の寄付金となる可能性があるから,変更時の保険契約の価額をもって譲渡代金とすることが望ましい。
? 無償で譲渡した場合
転籍前の法人は,資産に計上してあった保険料積立金(配当金積立金を含む。)をとりくずす。
この場合,譲渡時の保険契約の価額(解約返戻金と積立配当金,前納保険料)は税務上寄付金とされる。また,資産のとりくずし額と保険契約の価額との差額は雑損失(雑収入)として損金(益金)に算入する。
借 方 |
貸 方 |
寄 付 金
(費用の発生)
|
×××× |
雑 損 失
(費用の発生) |
×××× |
|
保険料積立金
(資産の減少)
|
×××× |
配当金積立金
(資産の減少) |
×××× |
|
|
一方,転籍後の法人は,次のような経理処理を行う。
すなわち,保険契約の価額のうち,解約返戻金額を保険料積立金に,積立配当金を配当金積立金に資産計上し,その合計額を雑収入として益金に算入する。
借 方 |
貸 方 |
保険料積立金
(資産の増加)
|
×××× |
配当金積立金
(資産の増加) |
×××× |
|
|
|
|
(注) この雑収入の金額が転籍前の法人の支出/寄付金とみなされる金額である。 |
被保険者である役員・使用人に対する課税関係は生じない。
〈ケース?〉 法人・ 法人→ 被保険者・ 被保険者の遺族への名義変更
 |
|
(注) 被保険者=役員または使用人。 |
? 法人の経理と税務
退職金の一部として,保険契約上の権利を被保険者に譲渡した場合,当該契約の保険料積立金をとりくずすにあたって,保険契約の権利の価額は解約返戻金で評価される(所基通36−37)から,積立金との差額は雑収入もしくは雑損失として経理されることになる。
たとえば,退職金80万円,保険料積立金60万円(評価額50万円),現金払い30万円(=80万円−50万円)とした場合,次のような経理処理を行う。
借 方 |
貸 方 |
退 職 金
(費用の発生)
|
800,000円 |
雑 損 失
(費用の発生) |
100,000円※ |
|
現金又は預金
(資産の減少)
|
300,000円 |
保険料積立金
(資産の減少) |
600,000円 |
|
|
※保険契約譲渡損 |
|
なお,退職金は原則的には損金に算入できるが,被保険者が役員である場合で,その人の地位・在任期間・客観的な状況などからみて明らかに過大とみられる場合には,退職金について損金算入を否認される部分が出るので注意を要する。
? 受取人の税務
退職金として受領した場合は退職所得として所得税等が課せられる。退職所得としての保険契約の税法上の価額(生命保険に関する権利の評価額)は「その契約を解約したとした場合に支払われる解約返戻金の額(前納保険料,配当がある場合には,これらも加算する。)」によって評価される(所基通36−37)。従って,上例の場合,退職所得の一部として受け取った保険契約の価額は50万円として評価されて所得税と住民税の税額計算が行われる。
なお,名義変更後に解約した場合の解約返戻金は,一時所得として所得税の課税対象となる。この一時所得の計算上控除できる金額は,一般に支払保険料総額とされているが,退職所得課税の対象となった解約返戻金相当額がそれまでの支払保険料を上回っている場合には,その差額も控除することができる。
〈ケース?〉 法人・ 法人→ 法人・ 被保険者の遺族への名義変更
 |
|
(注) 被保険者=役員または使用人。 |
? 法人の経理と税務
法人は死亡保険金に対する権利を失うことになるから,保険料積立金をとりくずすことになる。これらの権利を取得したとみられる被保険者に対しては,変更時の解約返戻金(所基通36−37)相当額が給与として上積みされる。ただし,役員の場合は役員賞与となり損金に算入できないから注意を要する。
なお,とりくずした保険料積立金と解約返戻金額との差額は雑損失(雑収入)として損金(益金)に算入される。
借 方 |
貸 方 |
給 与
(費用の発生)
|
×××× |
雑 損 失
(費用の発生) |
×××× |
|
|
|
なお,名義変更後の保険料は給与等として損金処理される。
? 被保険者の税務
法人において,給与として処理された額は給与収入として所得税等の課税対象となる。なお,役員賞与とされたものは,法人の経理上損金不算入として取り扱われる。
(2) 死亡保険金受取人が役員・使用人の遺族である契約の場合
〈ケース?〉 A法人・ 被保険者の遺族→ B法人・ 被保険者の遺族への名義変更
 |
|
(注) 被保険者=役員または使用人。 |
? A法人,B法人それぞれの経理と税務
被保険者である役員・使用人の他法人への転籍に伴い,契約者変更を行う場合の経理処理は次のように行う。
保険料についてはすでに給与等として損金処理されており,また金銭の授受もないことから特段の経理処理は必要としない。しかし,変更時に配当金が資産計上されていればそれをとりくずし,とりくずした配当金積立金は次のいずれかの方法で経理処理する必要がある。
i)配当金積立金をA法人からB法人へ有償で譲渡する場合
転籍前のA法人は,譲渡代金を受け入れ,資産計上してあった配当金積立金を取りくずす。この場合,配当金積立金とりくずし額と譲渡代金との間に差額があれば雑収入(雑損失)として益金(損金)処理する。
ただし,譲渡代金より変更時の配当金積立金が大きい場合,その差額については,税務上寄付金とされる可能性があるから,両者は同額であることが望ましい。
一方,転籍後のB法人は,変更時の配当金積立金を資産に計上する。この場合,譲渡代金と資産計上額との差額は,雑収入(雑損失)として,益金(損金)処理する。
ただし,譲渡代金より変更時の配当金積立金が小さい場合,その差額については,税務上寄付金とされる可能性があるから,両者は同額であることが望ましい。
ii)配当金積立金をA法人からB法人へ無償で譲渡する場合
転籍前のA法人は,資産に計上してあった配当金積立金を取りくずすが,この額は無償譲渡であるため,全額寄付金となる。
一方,転籍後のB法人は,配当金積立金の受け入れの経理処理を行う。
なお,変更後の保険料については,転籍後のB法人において給与等の損金処理をすることになる(役員に対し過大報酬となる場合は損金不算入の報酬となる)。
? 被保険者の税務
課税関係は生じない。
〈ケース?〉 法人・ 被保険者の遺族→ 被保険者・ 被保険者の遺族への名義変更
? 法人の経理と税務
被保険者である役員・使用人の退任・退職等に伴い契約者名義の変更を行う場合の経理処理は次のように行う。
保険料については,支払いのつど損金経理されており,変更に伴う経理処理は不要である。しかし,退任・退職等に伴う契約者名義の変更時に配当金が資産計上されておればそれを取りくずし,損金に算入することになる。
この場合,支払保険料についてはすでに給与課税が行われているので,積立配当金等の受取人が法人から個人に移ったことにより,従業員への経済的利益の供与があったとみなされることはない。
? 被保険者の税務
課税関係は生じない。
20.団体手数料の収入時の取り扱い
事業保険扱いの団体については,一般に保険料(配当金相殺後)の3%ないし1%の団体手数料が支払われる。これは収入時,すなわち,保険料支払い時の雑収入に計上する。
借 方 |
貸 方 |
保険料積立金
(資産の増加)
|
×××× |
定期保険特約保険料
(費用の発生) |
×××× |
傷害等特約保険料
(費用の発生) |
×××× |
|
現金又は預金
(資産の減少)
|
×××× |
雑 収 入
(団体手数料)
(収益の発生) |
××× |
仮受消費税 |
×× |
|
|
|
(注) 上記の経理中の現金又は預金は保険会社へ支払われる保険料。消費税は税込方式。
|
|