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収入保障保険

 近年,死亡保険金が年金で支払われる「収入保障保険」「生活保障保険」などが主契約や特約として発売されているが,この年金の課税について論議を呼んでいる。
 契約者=被保険者=夫,保険金受取人=妻という契約形態について,その税務上の取り扱いを考えてみよう。
 まず,死亡が発生すると,保険金を年金で受け取る権利,年金受給権が相続税の課税対象となる(第12章「7.相続税法第24条と年金受給権の評価」参照)。そして,その後年金を受け取る際には,雑所得として毎年所得税・住民税が課税されることになる(第12章「5.受け取り年金額とその雑所得の金額」参照)。ここで,注意すべき点は,相続税の課税対象とされた年金受給権の評価額が,雑所得の金額を計算する時の必要経費計算の対象とはならないということだ。雑所得の計算は,払込保険料をもとにして計算される。このため,早期死亡の場合のように払込保険料が少ない場合は,受取年金額のほとんどが雑所得として課税対象となってしまう。
 年金受給権による相続税課税と年金の雑所得計算の問題については,以前「二重課税」ではないかとの論議が盛んに行われた時期があった。その時は「年金受給権に対する相続税の課税は,財産価値の移転に着目した課税であり,年金に対する雑所得課税は,保険投資によって得た収益に対する課税である。両者の課税客体は別のものであるから,二重課税とはならない」という見解があり,いつしか論議もされなくなっていた。
 生命保険業界は,この取り扱いについて遺族が年金を受け取る際の必要経費を「払込保険料の総額」ではなく「年金受給権の評価額」となるよう要望しているが,これが認められるまでは,すでに示されている取り扱いの範囲の中で,契約者等が不利益を被らない方法を考えなければならない。
 この保険を販売しているほとんどの会社が,年金を一括して一時金で受け取ることができる取り扱いとなっている。死亡が発生した場合,年金を受け取る前に一括して一時金で受け取れば,その一時金が相続税の課税対象となる。そして,その後,申し出により年金払特約により年金受け取りにすれば,年金の雑所得の必要経費の計算は,その一時金をもとにして行うことになっている。この場合,雑所得の金額はそれほど大きくならない。
 相続財産の額が少なくて,相続税がかからないような場合は,課税対象が「年金受給権の評価額」であろうと「一時金」であろうと,相続税はゼロ。しかし,受け取る年金にかかる所得税・住民税はまったく違ってくる。その人の遺産額を考慮して,一時金による受け取りも考えてみるべきである。

 ■収入保障年金の課税

 ところで,収入保障保険から支払われる収入保障年金に対する課税関係は次表のとおりとなる。

死亡一時金および収入保障年金に対する課税

 生保各社の実務処理を参考にして,上表の税務取り扱いを設例を使って具体的に示してみよう。

〈設 例〉

 口座振替月払15,000円,加入8年目に死亡,既払込保険料1,350,000円(90か月),死亡一時金1,000万円,年金年額240万円,年金受取回数15回,年金配当10万円。(数値は仮定)

 相続人は妻と子とする。

(1)契約者=被保険者のケース

<1> 被保険者の死亡時

 被保険者が死亡したときには,死亡一時金と年金受給権の評価額(相続税法第24条)との合計額が相続税の課税対象となる。

 この場合,受取人が相続人であるときは生命保険金の非課税財産の適用があり,死亡一時金と年金受給権の評価額との合計額から差し引くことができる。

<2> 年金受給時

 その後年金受取人が取得する収入保障年金は雑所得として所得税の課税対象となる。雑所得の計算は次による。

(注)一の契約で一時金支払部分と年金支払部分を併せ持つ場合は,収入保障特約部分の保険料は次の算式による。(所令183<1>三)

したがって,設例では次のようになる。

(2)契約者=保険金受取人のケース

<1> 被保険者の死亡時

 保険金受取人が取得する死亡一時金は一時所得として所得税の課税対象となる。その場合の一時所得の計算は次による。

 一時所得の金額=〔死亡一時金−(既払込保険料総額−収入保障特約部分の保険料(注))−50万円〕

(注)収入保障特約部分の保険料は,上記クによる。

 総所得金額へは,上記一時所得の金額の2分の1を合算する。

 したがって,設例では,一時所得の金額は以下のようになる。

 〔1,000万円−(1,350,000円−1,066,500円)−50万円〕=9,216,500円

 総所得金額へは,9,216,500円の2分の1,すなわち4,608,250円を合算。

<2> 年金受給時

 雑所得として所得税の課税対象となる。その計算は,上記(1)<2>と同じ。

(3)契約者,被保険者,保険金受取人がそれぞれ異なるケース

<1> 被保険者の死亡時

 契約者(保険料負担者)から保険金受取人への贈与となり,贈与税が課せられる。その課税対象額は,上記(1)<1>と同じ方法による。

<2> 年金受給時

 雑所得として所得税の課税対象となる。その計算は,(1)<2>同じ。

■介護収入保障年金,高度障害年金の課税

 死亡を伴う収入保障保険の課税取扱いは上記のとおりであるが,寝たきりや痴呆により要介護状態や高度障害状態になった場合に給付される介護収入保障年金や高度障害年金はどう取り扱われるのであろうか。結論からいえばこの給付金は,所令30で規定される「生命保険契約に基づく給付金で,身体の傷害に基因して支払いを受けるもの」に該当し,非課税として取り扱われる。これは一時金で受け取っても年金で受け取っても同様である。

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