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■はじめに ■税務からみた個人年金の特徴・問題点 ■保険料の取り扱い ■契約者配当の取り扱い |
平成2年の初めに,法人を契約者とする個人年金の取り扱いが大きく変わりそうだとのうわさがあった。その話の背景には,当時とくに注目を浴びていた「養老保険の2分の1損金算入」がある。つまり,法人契約の個人年金の税務処理に関して根拠とする通達等がなかったため,法人税基本通達9−3−4(養老保険に係る保険料)を類推解釈し,個人年金についても年金受取人=法人,死亡給付金受取人=被保険者の遺族の場合,普遍的加入の条件を満たしていれば,その支払保険料の2分の1を損金の額に算入することができるという考え方(ただし,従来から生保業界ではこの考え方は個人年金には適用されないというのが通説であったから,かなり無謀なものだといえる。)で販売が行われ,それが税務署から否認されたというもの。また,それと併せて法人が年金受取人となっている場合に,法人が年金を受け入れたときに取り崩す,資産計上されていた保険料積立金等の額の処理についても,問題点があるということだった。
個人年金は,生死混合保険である点では養老保険に類似しているが,養老保険と比べると次のような特徴がある。 <1> 死亡給付金の額は保険料払込期間に応じて徐々に増加し,保険料に占める危険保険料(死亡給付金に充てられるもの)の割合が低い。 <2> 年金支払開始日前後を通じて契約者配当が支払われ,また,養老保険などの消滅時特別配当に代えて,年金支払開始日に多額の特別配当が分配されて年金の額が増加する。しかも,その契約者配当の受取人が年金支払開始日の前後で異なることがある。 <3> 満期保険金はなく,年金が支払われる。 このような特徴点を考えると,法人を契約者とし,従業員を被保険者として個人年金に契約した場合,税務上,次のような点をどのように取り扱うかが問題となる。 (1) 保険料の取り扱い 基本的には養老保険に係る保険料の取り扱い(法基通9−3−4)と同様に取り扱うことが考えられるが,その場合,保険料に占める危険保険料の割合が低い点をどうするか。 (2) 契約者配当の取り扱い 契約者配当は,契約者だけでなく年金受取人もその受取人とされるが,これをどのように取り扱うか。 (3) 資産計上した支払保険料および契約者配当の取り崩し等の取り扱い 保険料や契約者配当を原資として年金が支払われるが,年金の受け取り等に伴い資産計上した支払保険料および契約者配当の取り崩しはどのように取り扱うか。 (4) 契約者を法人から個人に変更した場合の取り扱い 被保険者である従業員が退職等に際し契約者を法人から個人に変更した場合,被保険者である従業員に対する課税関係はどうなるか。
保険料支払時の処理については,死亡給付金受取人=被保険者の遺族,年金受取人=法人の場合,普遍的加入を前提に,その支払保険料の10%が期間の経過に応じて損金の額に算入できることとされた。 (注)この取り扱いは,保険料に占める危険保険料の割合を10%として規定されたものだが,これは55歳〜65歳を年金支払開始年齢とする個人年金契約の保険料をみると,積立保険料部分の割合が平均的にほぼ90%になっていることによる。 従来の実務処理は,個人年金保険料の中における死亡給付金に対応する保険料部分は極めて少ないことから,死亡給付金の受取人が法人であるか被保険者の遺族であるかに関係なく,年金の受取人に着目して,それが法人であれば支払保険料の全額を資産に計上,被保険者であれば全額を給与・報酬として処理していた。
個人年金の契約者配当については,年金支払開始日前は契約者に支払われるが,年金支払開始日以後は年金受取人に支払われる。年金受取人が従業員である場合は,従業員が契約者配当を受け取ることになる。 (1) 年金支払開始日前に支払われる契約者配当 配当通知を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入。 ただし,年金受取人が被保険者であり,かつ,労働協約など法人と被保険者との契約により,支払配当が年金支払開始日まで積み立てられる(同日に責任準備金に充当される。)ことが明らかである場合には,益金の額に算入しない処理が認められる。 (注)養老保険における取り扱いは,資産計上した保険料の中に貯蓄性のない危険保険料の額が含まれていることを考慮してのもの。しかし,個人年金については,危険保険料の占める割合が,極めて少ないため,養老保険と同様に取り扱うことは問題があるとされた。 なお,年金支払開始日に多額の特別配当が支払われる(経過期間10年以上の場合)が,この特別配当については,年金支払開始日以後に年金等として支払われるまでは法人の益金の額に算入されない。 (2) 年金支払開始日以後に支払われる契約者配当 年金受取人が法人である場合に,通知を受けた日の属する事業年度の益金に算入。
(1) 年金支払開始日前に被保険者死亡の場合 資産に計上した支払保険料の額および契約者配当等(積立配当に付される利子を含む。)の全額を取り崩して損金の額に算入する。 (2) 年金受取人が被保険者である契約の年金支払開始日が到来した場合 資産に計上した契約者配当等の額の全額を取り崩して損金の額に算入する。この契約形態では支払保険料は給与処理されており,法人に資産計上額はない。
(3) 法人が年金の支払を受ける場合 <1> 契約年金および増加年金の支払を受ける場合 次の算式で得られる額に相当する年金積立保険料の額を取り崩して損金の額に算入する。
なお,保証期間付終身年金で被保険者の余命年数により取崩額を算定している契約で被保険者が死亡した場合には,次の額を死亡の日の属する事業年度の損金の額に算入する。
(注) 保証期間付終身年金の場合,保証期間中に被保険者が死亡したときは残りの保証期間中年金が支払われる。以後の取崩額は保証期間により算定することになるが,すでに取り崩した額については,余命年数によっていたため取崩額が過小になっている。上記の処理はその過小部分について一時に損金の額に算入する機会を与えているものといえる。 <2> 年金支払開始日後の契約者配当により買い増した年金(買増年金)の支払を受ける場合 1年分の買増年金ごとに次の算式により計算した額の買増年金積立保険料を取り崩す。
なお,保証期間付終身年金で,保証期間および余命年数の期間のいずれをも超過した後においては,買増年金積立保険料の全額を取り崩して損金の額に算入する。
(4) 法人が年金の一時支払を受ける場合 一時支払によりその保険契約が消滅するか否かに応じて処理が異なる。 <1> 消滅するもの(確定年金を一時金で受け取る場合) 年金積立保険料と買増年金積立保険料の取崩残額の全額を取り崩して損金の額に算入する。 <2> 消滅しないもの(保証期間付終身年金の残存保証期間分を一時金で受け取る場合) 残りの保証期間内に年金の支払を受けることとした場合に取り崩すこととなる年金積立保険料と買増年金積立保険料の額を取り崩して損金の額に算入する。
(注) 法人が年金の支払を受ける場合の従来の実務上の処理は, (5) 解約および契約者変更の場合 資産に計上した支払保険料および契約者配当等の額の全額を取り崩して,その事業年度の損金の額に算入する。
年金支払開始日前に被保険者である役員または使用人が退職したこと等に伴い,契約者および年金受取人を法人から被保険者に変更した場合には,解約返戻金相当額(契約者配当等を含む。)の退職給与または賞与の支払があったとして取り扱われる。
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理解を容易にするために,保険料の処理は個人年金保険料のみを取り上げた。特約保険料については,法人税基本通達9−3−6の2の規定が準用される。
(1) 契約の形態 ・契約者 =法人
(2) 保険料払い込み時の取り扱い <1> 法人の経理処理 法人が負担した保険料は全額資産に計上され,損金にはならない。
<2> 被保険者の税務上の取り扱い 課税関係は生じない。
(3) 配当金の取り扱い <1> 法人の経理処理 その通知を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入する。
年金支払開始日後に支払われる配当金を買増年金の一時払保険料に充当した場合。
<2> 被保険者の税務上の取り扱い 課税関係は生じない。
(4) 年金受け取り時の取り扱い <1> 年金受け入れと資産計上した保険料等(保険料積立金および配当積立金)の処理
(注)1 「現金または預金」は受け入れた年金の額(契約年金+増加年金+配当金) 買増年金を一緒に受け取る場合
(注)1 「現金または預金」は受け入れた年金の額(契約年金+増加年金+買増年金) <2> 法人が受け取った年金を退職年金として被保険者に支払った場合 退職年金として被保険者に支払った事業年度の損金の額に算入できる。
<3> 年金を受け取った被保険者の取り扱い 受け取った年金に所得税が課税される。
(5) 年金支払開始日前に被保険者が死亡した(解約した)場合 支払を受けた死亡給付金(解約返戻金)および配当金等の額を益金の額に算入し,それまでに資産に計上している支払保険料および配当金等の全額を取り崩す。
(6) 年金支払開始日以前に契約の名義を法人から被保険者に変更した場合 <1> 契約形態の変更 ・契約者 =法人 → 従業員(被保険者) <2> 法人の経理処理 保険契約の権利を退職金または賞与として被保険者に譲渡したことになるので,資産に計上している保険料積立金および配当積立金の全額を取り崩す。
<3> 被保険者の税務上の取り扱い 法人から契約の権利を退職金または賞与として受け取った場合には,退職所得または給与 として所得税が課税される。その後,受け取る年金は雑所得として課税される。
(1) 契約の形態 ・契約者 =法人
(2) 保険料払い込み時の取り扱い <1> 法人の経理処理 法人が従業員のために支出した保険料は,従業員に対する給与とみなされ,原則として損金の額に算入される。
<2> 被保険者の税務上の取り扱い 給与として所得税が課税される。したがって,生命保険料控除の適用が受けられる。
(3) 配当金の取り扱い <1> 法人の経理処理 原則として通知を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入する。
ただし,法人と被保険者との契約(労働協約など)により,法人が配当の支払請求をせずに年金支払開始日まで積み立てられる(年金支払開始日に増加年金の責任準備金に充当される。つまり,確実に年金受取人である被保険者が受け取ることになる。)場合には,益金の額に算入しないことができる。 <2> 被保険者の税務上の取り扱い 課税は生じない。
(4) 被保険者が退職時の経理処理 ●退職時にまだ年金支払開始日が到来していない場合 <1> 法人の経理処理 契約者変更により法人は配当金等を受け取る権利がなくなるので,資産計上された配当金積立金がある場合には,その全額を取り崩し損金の額に算入する。
<2> 被保険者の税務上の取り扱い 課税されない。
(5) 年金の受け取り ●退職前に年金支払開始日が到来する場合 <1> 法人の経理処理 年金支払開始日が到来したことにより,法人は配当金等を受け取る権利がなくなるので,資産計上された配当金積立金がある場合には,その全額を取り崩し損金の額に算入する。
<2> 被保険者の税務上の取り扱い 受け取った年金は雑所得として課税される。
(6) 死亡給付金の受け取り <1> 法人の経理処理 死亡給付金(配当金を含む。)は被保険者の遺族に直接支払われるので,法人は資産計上された配当金積立金がある場合には,その全額を取り崩して損金の額に算入する。
<2> 受取人の税務上の取り扱い 被保険者の遺族が受け取る死亡給付金は,相続税が課税される。法定相続人の数1人につき500万円の非課税財産の規定がある(相法12<1>五)。
(7) 年金支払開始日前に解約した場合 年金支払開始日前に契約を解約した場合,約款ではその解約返戻金(配当金を含む。)は契約者である法人に支払われる。 (注) 福祉厚生保険型の契約は,支払保険料が給与処理されるので,保険料の実質負担者は被保険者である従業員であり,契約者は法人であっても実態は個人契約と同様である。ところが,契約を解約したり解約返戻金を受ける権利は約款上,契約者である法人にあるため,一方的な解約は問題となるところである。 <1> 法人の経理処理 解約返戻金等は益金の額に算入し(問題のあるところだが…),資産計上された配当金積立金がある場合には全額を損金の額に算入する。
<2> 被保険者の税務上の取り扱い 課税関係は生じない。 (注) 従業員の退職等により解約するというのであれば,むしろ契約者を法人から従業員に変更する方法がいいだろう。その場合,法人は資産計上された配当金積立金があれば,全額を取り崩して損金の額に算入する。
名義変更の時点では,従業員に課税関係は生じない。これ以降に従業員が契約を解約すれば,解約返戻金は一時所得の対象となる。
(1) 契約の形態 ・契約者 =法人
(2) 保険料払い込み時の取り扱い <1> 法人の経理処理 普遍的加入の要件を満たしている場合,支払保険料の10%は福利厚生費として期間の経過に応じて損金の額に算入,残りの90%は資産に計上される。
役員等特定の従業員のみ加入の場合は,支払保険料の10%は給与扱いとなる。
ただし,被保険者が役員の場合には他に支給される役員報酬と合算されて過大報酬とみなされれば,過大部分は損金不算入の適用を受けることがあるので注意を要する(法法34)。 <2> 被保険者の税務上の取り扱い 普遍的加入の場合は課税関係は生じない。
(3) 死亡給付金の受け取り <1> 法人の経理処理 死亡給付金(配当金を含む。)は被保険者の遺族に直接支払われるので,資産計上された保険料積立金と配当金積立金は,その全額を取り崩して損金の額に算入する。
<2> 受取人の税務上の取り扱い 被保険者の遺族が受け取る死亡給付金は,相続税が課税される。法定相続人の数1人につき500万円の非課税財産の規定がある(相法12<1>五)。 (4) その他の取り扱いは,1.経営者保険(退職金保険)型に準じて取り扱う。
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