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逓増定期保険

はじめに ■明らかにされた取り扱いの概要 ■対象となる逓増定期保険 ■支払保険料の損金算入時期と損金算入割合 
既契約の取り扱い ■その他

1.はじめに

 逓増定期保険は昭和51年から販売されているが,平成3年以降,取り扱い会社が増え,現在では20数社が販売している。
 この保険は,満期保険金のない生命保険であるが,毎年の保険金額は単利あるいは複利で逓増していく。ただし,基本保険金額に対する保険金額の割合が最高倍率(会社により異なるが,最高で5倍。)に到達した後は一定となる。単体商品と特約がる。
 平成3年以降,法人を契約者・死亡保険金受取人,その従業員(主に役員)を被保険者とする法人契約の形で積極的な販売が展開されてきたが,その支払保険料の税務上の取り扱いは明らかにされておらず,実務面では,法人税基本通達9−3−5(定期保険に係る保険料),9−3−6(定期付養老保険に係る保険料)あるいは昭和62年6月16日付直法2−2「法人が支払う長期平準定期保険の保険料の取扱いについて」通達により,保険料の全額あるいは2分の1が損金の額に算入される形で経理処理が行われてきた。


 しかし,保険金額が毎年逓増していくにもかかわらず各年の保険料は平準化されているため,保険期間の前半においては,支払保険料の中に多額の前払保険料が含まれている。そのため,支払保険料に対する解約返戻金の割合(以下の文中では「解約返戻金率」とする。)が80%を超える場合があるなど,一般の定期保険とは異なる特徴を有していることから,定期保険の取り扱いをそのまま適用することは適当ではないという意見もあった。
 そして,平成7年夏ごろからその動きが本格化していたが,国税庁は,平成8年7月4日付課法2−3(例規)により,昭和62年6月16日付直法2−2「法人が支払う長期平準定期保険の保険料の取扱いについて」通達の一部を改正し,その中で法人契約の逓増定期保険の保険料の取り扱いを明らかにした。
 なお,長期平準定期保険にかかる部分についても,文言等の一部改正が行われたが,取り扱いの内容は従来と変わっていない。ここでは新たに明らかにされた逓増定期保険の取り扱いについて解説する。

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2.明らかにされた取り扱いの概要

 法人が契約者,従業員を被保険者とする逓増定期保険の保険料を法人が支払った場合,契約形態により支払保険料の額が被保険者である従業員の給与となるケースを除き,契約開始日から保険期間の60%に相当する前払期間については,一定の要件に応じて,支払保険料のうち損金算入できる割合が2分の1,3分の1,4分の1に制限される。そして,前払期間の経過後は,支払保険料の全額を損金の額に算入し,それまでに資産計上した前払金等の累積額は期間の経過に応じて取り崩し,損金の額に算入することになる。
 なお,この取り扱いは,単体商品だけに限定されず,逓増定期保険特約の保険料についても同様に適用される。
 既契約は,平成8年9月1日以前の契約の保険料は同日以後に支払期日が到来するものについて,この取り扱いが適用されることとされた。

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3.対象となる逓増定期保険

 逓増定期保険の定義は,保険期間の経過により保険金額が5倍までの範囲で増加する定期保険とされている。各社の販売商品には逓増率や最高倍率などに違いがあり,経過年数に応じた解約返戻金率および最高解約返戻金率に差があるが,そのことによる取り扱いの違いはない。また,単体商品だけでなく,終身保険などに付加された逓増定期保険特約も同様に取り扱われる。
 また,通達の対象となる契約形態は,法人が契約者,従業員が被保険者となっているものであるが,役員または部課長など特定の従業員のみを被保険者とし,死亡保険金受取人を被保険者の遺族としているなど,支払保険料の額が被保険者である従業員に対する給与となる場合は,対象とならない。
 いいかえると,死亡保険金受取人が法人で,保険料が「支払保険料」として損金となる場合のほか,死亡保険金受取人は被保険者の遺族となっているが,従業員全員を対象に加入しており,保険料が「福利厚生費」として損金となる場合も対象となる。

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4.支払保険料の損金算入時期と損金算入割合

 逓増定期保険の支払保険料は「保険期間満了時の被保険者の年齢」と「加入時の年齢に保険期間の2倍に相当する数を加えた数」により定められた次のような要件により,契約開始時から保険期間の60%に相当する期間(前払期間。1年未満の端数がある場合は,その端数を切り捨てた期間を前払期間とする。)の損金算入割合が異なる。いずれの要件にも該当しない場合は,全額が損金となる。

 

(注) 「加入時の被保険者の年齢」とは,保険証券に記載の契約年齢をいい,「保険期間満了時の被保険者の年齢」とは,契約年齢に保険期間の年数を加えた数に相当する年齢をいう。


 上記の要件により,満期年齢に対する契約年齢について損金算入割合をまとめると,次のようになる。

 

(注) 各社が実際に取り扱う保険期間や契約年齢範囲とは関係なくまとめている。


 また,見方を変えて,加入時の年齢に対する保険期間について損金算入割合をみると,次のようになる。

 

(注)各社が実際に取り扱う保険期間や契約年齢範囲とは関係なくまとめている。


 加入時の契約年齢が45歳の場合,満期年齢の違いにより損金算入割合は次のように変わる。

● 契約年齢45歳の場合
 (1) 65歳満期
  満期年齢60歳超,45+(65−45)×2=85<90 →全額損金
 (2) 70歳満期
  満期年齢60歳超,45+(70−45)×2=95>90 →2分の1損金
 (3) 80歳満期
  満期年齢70歳超,45+(80−45)×2=115>105→3分の1損金
 (4) 85歳満期
  満期年齢80歳超,45+(85−45)×2=125>120→4分の1損金

【設例】
 ・契約形態:契約者・死亡保険金受取人=法人,被保険者=役員
 ・契約内容:80歳満期,50歳契約,男性
 ・年払保険料120万円
  50+(80−50)×2=110>105→前払期間の損金割合は3分の1


(1) 前払期間18年間(保険期間の6割相当期間=(80−50)×0.6)の保険料払込時の経理処理

借   方 貸   方
定期保険料 400,000円
前払保険料 800,000円
現金又は預金 1,200,000円
 


(2) 19年目から30年目までの12年間(前払期間経過後)の保険料払込時の経理処理

借   方 貸   方
定期保険料 1,200,000円
定期保険料※ 1,200,000円
現金又は預金 1,200,000円
前払保険料 1,200,000円
 


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5.既契約の取り扱い

 平成8年9月1日以前の契約の逓増定期保険(特約を含む。)の保険料については,同日以後にその支払期日が到来するものについては,この通達の内容により取り扱うこととされた。
 この考え方は,8月までの入金分は以前の取り扱いを適用し,9月1日以降の入金分については,新しい取り扱いを適用するものであるから,支払期日については次のように考える。
  ●初回保険料………………初回保険料払込日
  ●2回目以降の保険料……払込応当日(払込期月の初日)


 既契約で定期保険に逓増定期保険特約を付加しているものについては,その保険料が区分されていれば,平成8年9月1日以降に支払う保険料は主契約部分と特約部分に分けて経理処理することになった。

【設例】
 ・契約形態:契約者・死亡保険金受取人=法人,被保険者=役員
 ・契約内容:75歳満期,46歳契約,男性,平成6年10月契約
 ・年払保険料:定期保険部分16万円,逓増定期保険特約部分94万円
  逓増定期保険特約保険料の前払期間の損金算入割合は,
   46+(75−46)×2=104<105 →2分の1

(1) 平成8年8月31日以前の支払保険料の経理処理

借   方 貸   方
定期保険料 1,100,000円
現金又は預金 1,100,000円
  (注) 定期保険料 1,100,000円=160,000円+940,000円

(2) 平成8年9月1日以後の支払保険料の経理処理

借   方 貸   方
定期保険料 630,000円
前払保険料 470,000円
現金又は預金 1,100,000円
 


6.その他

 保険期間の全部または数年分の保険料をまとめて支払った場合は,いったんその保険料の全部を資産に計上し,その支払いの対象となった期間(全保険期間分の保険料の合計額をその全保険期間を下回る一定の期間に分割して支払う場合には,その全保険期間とする。)の経過に応ずる経過期間分の保険料について,同様の経理処理をする。
 保険料が区分されている傷害特約等の保険料については全額損金算入できる。
 なお,一部の会社が販売している逓増収入保障特約については,逓増定期保険の取り扱いは適用されないことが確認されている。

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